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博物館経営の研究者のBlog.
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指定管理者制度の開始と博物館法改正:制度改正の概観と社会的役割の多様性

昨日、科学技術館にて日本ミュージアム・マネージメント学会基礎部門研究会第9回研究会「指定管理者制度の開始と博物館法改正:制度改正の概観と社会的役割の多様性」が実施されました。

今年度は、学会として3年間取り組んできたテーマ「社会のためのミュージアム」の最終年度に当たることから、今回はまとめとして、近年の制度改革がミュージアム・マネジメントに与える影響を概観することになりました。

この度コーディネーターを拝命した私は、制度改革の概観だけで終わるのではなく、次の3年につながるような話題提供をしたいと思い、博物館の社会的役割の多様性について、博物館が役割を期待される他領域の専門家からの視点を入れたいと考え「観光」と「まちづくり」の発表を加えました。以下で簡単に報告したいと思います。


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「指定管理者制度の開始と博物館法改正」 和光大学経済経営学部 平井宏典

新自由主義改革に基づく新しい公共の形として、官から民へのスローガンの下、日本版PPPを実現するための博物館に関連する制度改革として、独立行政法人化、指定管理者制度、PFIの活用、アウトソーシング等の方策の活用が検討されはじめた。

公立館が大多数を占める日本において、多大な影響を与えた指定管理者制度は、そのインパクトの大きさから議論が白熱し、すべて同じバケツに問題を押し込め、混沌とした中で今も関係者が戸惑いながら制度活用の検討が進められている。制度設計における問題、制度を運用する設置者側(地方公共団体等)の問題、そして指定管理者側の問題など、きちんと問題の所在を整理する必要がある。

個人的には、島根方式など制度の運用面で如何様にもできる問題はあると思うし、指定管理者側よりも設置者側がしっかりとポリシーを持っていなければいけないと感じている。

約60年ぶりにもなる博物館法改正は、関係者の期待とは裏腹に小幅に終わり、当時は新聞で「期待はずれ」等かなり刺激的な言葉も使われたりした。そこで、本発表では主な改正点を列挙すると同時に積み残した課題として、登録制度や学芸員養成課程、さらに努力義務が法に明記されることになった評価についての問題を確認した。

「観光のトレンド」明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部 神末武彦先生

現在、観光業界での話題といえば2020年の東京五輪、インバウンド政策、MICEの強化と誘致。しかし、MICEについてはアジア圏で日本は遅れをとっている。日本の観光業における問題は挙げれば切りがないが、博物館にも関連のあるところで言えば多言語表示等の観光地整備、言語バリア(通訳ガイド、語学力)、受け入れ施設、地方との格差といったところか。

現代社会が観光に与える影響として、運輸のハイスピード化やマスによる低価格化によって世界の様々なところへ行けるようになった一方、ヴァーチャル化(リアルへの欲求を削ぐ)や観光地の画一化(による魅力の低下)等のマイナス面も出てきた。

しかし、近年ではバブル期の頃のような団体旅行(マス)から個人旅行へ、画一的なツアーから多様性へとトレンドが変化してきている。この多様性における目的型とも言える観光スタイルはタイプによって様々な呼称がありAgriculture、Arts、Cultural、Eco、Educational、Heritage、MICE、Dark、Ruralなど枚挙に暇がない。

上記のような目的型の観光において博物館が果たす役割は非常に大きい。特に、従来型の観光である「行ったことのない場所へ行くこと」から「現地の文化を観ること」へ変わり、現在では「現地文化を体験したい(観光用から本物へ)」がトレンドになっている。この辺りは本物がある博物館の醍醐味だと考えられる。

最後にハワイを例にとった観光のトレンドの変化をビショップミュージアムの取組の紹介と共に説明していただいた。

「博物館とまちづくりの接点」東海大学 江水是仁先生

まちづくりとは「住民生活における「土地の共同」利用とその上に成り立つ共同生活条件の整備を目的として、生活の必要性に基づいて地域問題を解決し、目指すべき地域像を達成していく取り組み」(山崎丈夫『まちづくり政策論入門』より)

上記の認識に立ち、社会教育基本法や博物館法、または生涯学習審議会答申や中央教育審議会答申に目を配ると「自ら実際生活に即する文化的教養を高め得るような環境を醸成する」「地域住民その他の関係者の理解を深めるとともに、これらの者との連携及び協力の推進に資する」「地域の連携、まちづくり」「従来の『官』と『民』の二分法では捉えきれない、新たな『公共』のための活動」等の記述が散見され、博物館とまちづくりは密接な関係にあると考えられる。

ケーススタディで取り上げられた長谷川町子美術館では、著作権に抵触する漫画原画のキャラクターを地域に解放し、銅像を制作したり、駅の看板にキャラクターを利用したり等、美術館の活動を敷地内にとどまらせず地域全体に浸透させることで「桜新町=サザエさん」というまちづくりに成功した。

さらに「ちがさき丸ごとふるさと発見博物館」の事例を紹介すると共に、博物館の機能を敷地内や学芸員にとどめない、ミュージアムを必要とする人たちにその運営を任せる新しい公共のあり方と、博物館の脱施設化・学芸員の役割の変化が指摘されました。

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私の制度改革は置いといて....


観光は神末先生の指摘通り博物館の果たす役割は大きいと思います。旧来の観光地における集客施設としてだけではなく、地域外の人との関係を構築するという意味で博物館ならではの観光における役割があると考えています。もちろん博物館本来の機能を発揮して、その土地固有の文化を発信する主要な施設としての役割を果たすことは、特に地方において重要性が高いと思います。

また、江水先生のまちづくりの話は奇しくも私がここ数年来取り組んでいる芸術祭の調査や社会ネットワーク論に基づく博物館経営の研究にとても近い内容でした。博物館の機能や役割を広く地域へ敷衍するというか、より博物館が地域へコミットしていくというのは重要なことだと感じています。「開かれた博物館」としてドアをオープンにして色んな方に来ていただくだけではなく、博物館自ら地域に出ていくイメージが必要不可欠だと思っています。

コーディネーターとして力不足ではありましたが、登壇者と関係者の皆様のご助力で充実した研究会になったのではないかと感じております。活発に議論していただけた参加者(遠方からの方も)の皆様も含め、この場にて心より御礼申し上げます。自分自身もとても勉強になった一日でした。
 

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