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博物館経営の研究者のBlog.
研究を中心に趣味や日常などについても紹介していきます.

日本のミュージアム・マネジメント論の階層的問題
 ブログの名前を"Museum Management Blog"にしたし、どこどこの美術館に行ってきました記録になりつつあるし、ここらで研究者らしく一席打ってみたい。

非常に良いお付き合いをさせていただいている研究者の先輩と新橋で飲むことがあり、ひょんなことからミュージアム・マネジメントの議論になった。行政学が専門であるS氏は日本のミュージアムの大多数が公立である現状を踏まえれば私以上に専門家とも言える。

そしてS氏はお酒で判断力が鈍っているように見えつつ、私の悩み所を看破し、勉強不足の痛いところを的確に突いてくる。その話を整理しつつ、私なりに問題を考察したい。

日本のミュージアム・マネジメント論の階層的問題とは議論のレベルのお話です。

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第一段階:マネジメントの発想が欠如している段階

論外ですが、中小規模館の多くはこの状態です。与えられた予算の枠組みの中でいかにやりくりするかが中心的課題。典型的な予算主義で、自ら資金を調達もしくは付加価値創造という考え方がないので、経営というより運営という感じ。複式簿記ではなく単式簿記という感じで一番上にある大きなおカネから経費を延々と引いてくだけ。

現状がこれだから経営学的発展は望めない。いいところ効率性向上(コスト削減)で止まってしまう。


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第二段階:表層的な現象を記述しているだけの段階

自戒の念を込めて多くのミュージアム・マネジメントの研究がこの段階止まりだと思います。つまり現実に起こっている出来事を書いているだけで理論構築まで至っていない。指定管理者・独立行政法人・公益法人制度の改正といった制度の検討、国内外のグッドプラクティス事例の紹介など、すでに現象として起きていることを整理する段階。

理論=一般化ではないと考えていますが、理論は現象の記述ではなく現象の証明だと思っています。是非はともかく、なぜビルバオ効果はそれなりにこの業界で注目されたのかと言えばそれは創造都市理論の文脈で論理的に説明されたからだと思います

日本の場合、グッド・プラティクスが紹介されてもその多くはそれなりに資源のある都市部の中大規模館であり、多くを占める地方の中小規模館には参考にならない。市場などの周辺環境があまりに違い、結局「あの館はいいよ、お金もあるし、うちじゃ到底無理な話だ」で終わってしまう。

なぜそうしたグッド・プラクティスが実現できたのか、その現象を経営学的な理論フレームワークに落とし込むことで、分析して自館でどのように応用するかが検討できる(事例研究の場合の話)。

私の認識では、日本のミュージアム・マネジメントの研究の多くはこの段階で、リンゴが落ちたことを指摘するが、なぜリンゴが落ちるのかというメカニズムを考える段階にまでは至ってないイメージです(私も残念ながら、このあたりの論文を書いてきました)


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第三段階:ミュージアム・マネジメントの理論構築

なぜリンゴが落ちるのかというメカニズムを考察する段階ですが、ここが非常に難しい問題を内包していると思っています。私は経営学者という立ち位置から研究しており、自分の専門領域である経営戦略論の枠組みでミュージアムをある業界として捉えて研究しています。

このこと自体は間違っているとは思っていません。

経営学は営利企業のみを扱う学問領域ではなく、ソーシャル・マーケティング、NPOマネジメント、会計学でも学校法人会計や病院会計準則など非営利分野の研究も行なわれています。私もそういう領域のひとつとしてミュージアムを捉えています。

しかし、重要なこととして、ミュージアムという産業の特性をしっかりと捉えているかという問題があります。S氏は「アートの特性が表面的にしか扱われず、アートの重要性を訴える部分とマネジメントの議論が肉離れ状態に陥っている」と指摘しています。

この指摘はとても的確で私自身とても気をつけているところです。ミュージアムはイニシャルコストもランニングコストも非常にかかるので装置型産業としての性質を有している。じゃあアセットライト戦略のようにハードもソフトも極力持たない形にできるのか。もちろんPPPの枠組み(手法)をうまく活用すればできないわけではないが、市場原理の働かない業務やコレクションをどのように担保するのかという営利企業では存在しない問題が浮上してくる。

ここを丁寧にやらなければいけない。伝統的な経営学は製造業をモデルに発展してきたものであり、安易な当てはめはS氏の指摘通り肉離れ状態になる。私の専門性と現在の力量?的にはここが自分の正念場だと思っている。

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第四段階:ミュージアム・マネジメント論の学際的な広がり

経営学ですべてを包含できると思うほど楽天家ではないが、ミュージアム・マネジメントという学問領域があるのであれば、ミュージアムを経営体として捉えるのであれば、やはり経営学の枠組みで論じるべきだとは思う。

しかし、現実問題として(美術館に限れば)アートの社会的重要性や哲学的な部分は経営学だけでは論じきれない部分もあるし、公立館が大多数を占める日本では行政学的なアプローチも必要不可欠だと思う。そして、創造都市理論といった文化経済学や都市計画は私が一番注目している分野でもある。

このような多領域にまたがる分野こそがミュージアム・マネジメントの真の独自領域だと感じている。だからこそmuseum+(ミュージアム・プラス)という博物館研究を専門とする若手研究者のソサエティに参加しているわけで、共同研究にも力を入れているのです。

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日本のミュージアム・マネジメント論の階層的問題の話は上記の通りに考えています。長文書いてて疲れたし、書く程にもっと勉強しなければと痛切に感じる。若手というのを言い訳にはできませんね。

最後は愚痴的な話になりますが、私自身は第二段階が日本の現状だと思っています。その原因はいくつかありますが、まず経営学者によるミュージアム・マネジメントの研究が圧倒的に不足していること。しかも理論構築の部分になると本当に少ない。それと設置主体である行政が現場に丸投げで政策的なビジョンを打ち出していないこと。文化の力が軽んじられているとさえ思う。

このふたつが改善されれば、この分野ももっと盛り上がると思うんですよね。

なんか話がとっ散らかっちゃった感じなんで急に終わります。

こんな話を最後まで読んでいただいたお疲れさまです、ありがとうございます。
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